【入門】ソフトウエアライセンス契約
先日顧問先からソフトウエアライセンス契約に関する問い合わせを受けたのでいまさら聞けない【入門編】としておさらいをしておこう。
著作権法は、文芸、美術、音楽といった著作物を保護するための法律であり120年近い歴史を持つ(1899年制定)。
これまで著作権法はたびたび改定されてきたが、2013年の改訂は記憶に新しい方も多いだろう。
付則抄(約24000文字)の除いた本文だけで全124条、条文の文字数は約72,800字。 なんと日本国憲法の7倍以上の分量だ。
どちらかというと当初「芸術性のある創作物」の保護を目指していたこの法律がなぜソフトウェアをカバーすることになったのか?
それは1980年代初頭の「IBM産業スパイ事件」を契機としている。 今ではサイバー攻撃によるステルスなスパイ行為は珍しくなくなってしまったが
当時は米国で隆盛を極めた大型コンピュータが日本メーカーの参入やダウンサイジングなどで凋落傾向にあり、勢い米国からの強い圧力があった。
そのため当時の通産省がベルヌ条約によって国際的な保護が確立していた著作権法を利用することになったというわけだ。
ソフトウエア関係の技術者が著作権を意識する場面としては
- 購入したソフトウエアパッケージを利用するときのEULA(*1)
- オープンソースを利用するときのライセンス条項
- 委託者、発注者(ユーザ企業)と委託先、受託者(ベンダー企業、下請け企業)間の開発委託契約
EULA(*1): End User License Agreement (使用許諾契約書)
ソフトウエアの著作権
話を進める前に先ずはソフトウエア(プログラムコード)にフォーカスして著作権を簡単に整理しておこう。
著作権には人格権と者財産権の2つがある。
そして前者には三つの権利がある。
- 「公表権」(18条):ソフトウエアを公衆に提供・公表する権利
- 「氏名表示件」(19条):ソフトウエアに作者の氏名を表記する権利
- 「同一性保持権」(20条):勝手に改変させない権利
フリーソフトなどでよく「著作者は全て放棄するのでご自由にお使いください」と書いてあったりするがが、残念ながらそれでも「著作人格権は譲渡できない」(一身専属権)。 実際の著作者(生みの親)が誰だかわからないと法的安定性を欠き、本人の保護、あるいは使用者に無駄な混乱を与えないようにする、というのがその趣旨らしい。
理由はともあれ、これに関してはソフトウエア発注者は契約書に「著作者人格権の行使をしない」と明記しておいた方が後からもめることもないだろう。 つまり人格権は委託先が引き続き「保持」するがそれを「行使」はしないことを合意しておくことだ。
これに対して財産権は11個あるが(*2)、ソフト開発で注意が必要なのは以下の3点だ。
- 複製権:コピーする権利
- 頒布権:第三者にリリースする権利
- 改変権:ソースコードを変更、追加する権利(デバックや改善等)
(*2)財産権 (出展:著作権情報センターCRICのホームページから引用)
ソフト開発関連の契約書と著作権
先ず貴方が発注者側として契約書を作成する場合に注意すべき項目をおさらいしておく。
A社(発注者である貴方の会社)がB社に対して発注(金を出して開発委託)して納入されたソフトウエアの著作権は何も記載しないと自然権としてB社に帰属することになる。
これは「著作者とは,著作物を創作する者をいう」(著作権法第2条1項2号)条文があるからだ。
従って通常は、基本契約書や個別契約書で以下の記載をして、両社で合意を得ておくことが多い。
「開発費の支払いが完了した時点で納入した成果物に関する一切の著作権は発注者(A社)に譲渡する」
気心の知れた仲間どおしの契約ならこれでもいいが、「念には念を入れる」という意味では上記条文の『一切の著作権は発注者に譲渡する』の部分を以下のようにしておくと良いだろう。
『一切の著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)は発注者(A社)に譲渡する』
こうしておくことにより、他言語への翻訳などの二次的著作物も含めて全ての財産権は譲渡されることになる。 以下に関連条文を掲載しておくが、趣旨さえわかっていれば一種のおまじないだと思えばよいだろう。
●著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、もしくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する
権利を専有する。
●著作権法第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利
で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。
●著作権法第61条(著作権の譲渡)
1.著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
2.著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲
されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されてものと推定する。
次回は(ソフトウエアライセンス契約②)、契約書の記載事項に関してもう少し詳しく解説していきたい。
2017年6月3日