豊かな国になるために
これまで国土交通省がホームページで公開している「我が国の長期的人口推移」によるとこのままでは日本は2100年には6485万人になると国民の危機意識をあおっているように見えるが、「人口が少ない国が必ずしも不幸な国というわけではない」ことを説明した。
ここで整理をしてみると
- G7先進7か国の大半は人口6000万人~8000万人程度で、日本も過去800年の人口動態から単純に予測するとその程度のサイズに収まるはずだった。
- それが明治維新以降の「富国強兵」や「太平洋戦争敗戦後の戦後復興」という国策により人口爆発が起こり、日本の数万年の歴史の中のわずか直近150年の間に人口は4倍の1億2800万人を超えた(2010年)
- 人口6000~8000万人程度の先進国は総額としてのGDPは日本より劣るものの、個々の国民の「豊かさ」や「幸福度」を比較するために、試しに「一人あたりのGDP」、「労働生産性」、「ノーベル賞の授賞者数」、「健康寿命」、「オリンピックの獲得メダル数」等で比較したところ、むしろ日本のほうに課題が多い、ということが分かった。
どうやら「日本は労働生産性が低く給料も安いが、健康で長生きできる国」らしい、ということまでお話ししたうえで人口減少問題に隠された日本の課題を明確にしよう。
豊かさの源泉
日本は健康寿命において世界一というのは素晴らしいが、それ以外の指標はイマイチだ。
最近毎年のようにノーベル賞受賞者を出して盛り上がっており、「リオ・オリンピックでは獲得メダル数も過去最高だ」と騒いでいるが、両指標ともにG7先進7か国中第5位、更に「一人当たりのGDP」は第6位、「労働生産性」に至っては最下位となっている。
もはや「GDPは世界3位だ。中国に抜かれたのは人口が10倍いるからだ」等と言っている場合ではない。
特に労働生産性が低いこと、そして年収と強い相関があるといわれる「一人当たりのGDP」が低いのは個人の豊かさを阻害する大きな要因に挙げられよう。
「一人当たりのGDPランキング」を指標に!
右図が一人当たりのGDPの世界ランキングだ。
出典元はIMF – World Economic Outlook Databases (2016年4月版)で、世界経済のネタ帳から引用した。
一人当たりのGDPで日本の3倍をたたき出しているルクセンブルグを筆頭に第5位のマカオでさえ日本の2倍、先進国の中でも大国といわれるアメリカがやっと第6位にはいっている。
トップ5の国々に共通しているのは、人口が少なく(いずれも1000万人以下でルクセンブルグに至っては56万人程度)、タックスヘイブンを利用した金融国家、資源や観光に強く依存した国家等であり、少数人口を武器に国の政策を高付加価値産業に特化させることにより成功している国といっていいだろう。
一方、今臨時国会では「労働時間の短縮」が一つの目玉になっているが、2015年のIMFが発表した年間労働時間を世界と比較してみると、日本は1729時間で世界21位、世界平均の1749時間より短い。
ただ米国を除く先進国、例えばイギリスの場合は1658時間、フランスが1467時間、ドイツに至っては1371時間であり、これらの数字は一人当たりのGDPを押し上げる要因にもなっている。
ただ、労働時間の減少が生産性向上につながると考えるのは早計で、先進国中生産性トップの米国は日本よりも労働時間が長いことを忘れてはならない。
平均年収ランキングと我が国の課題
一人当たりのGDPと年収には高い相関があるといったが、それを確かめるため世界の平均年収ランキングを見てを見てみよう。
予想通り日本は先進7か国中イタリアと最下位を争っている。
時短の方向性は間違ってないだろうが、それより先にあるいはそれと同時に取り組むべき課題が多いのは間違いないだろう。
例えば、
1、産業の活性化と産業構造の転換
- 全産業において技術革新やイノベーションを起こして高付加価値化を推進する。農業やサービス業まであまねくIT化、ロボット化、AIの有効利用を推進する。
- 低付加価値から高付加価値を生む産業への転換。これには一時的にセーフティネットが必要だろう。
- 労働環境と関連して取り組まなければならないのは雇用の調整弁をどうするかという課題だ。 日本は多重下請けと非正規雇用でこれをカバーしているが、欧米、特に米国は正社員の首切り(レイオフ)で対応している。
日本はこの課題に対する立ち位置をどうするのかを明確にすべきだろう。
2、適材適所を推進するための雇用の流動化
- 日本は2006年OECDから「正規雇用の雇用保護の緩和」するよう勧告を受けている。 これはいわゆる「正規社員の解雇規制緩和論」にも通じる。
大企業でも「本当に付加価値向上に貢献しているのは2割(2:8の法則)」と良く言われるが、さらに悪いことに残りの8割の中には雇用保護の壁の中での安定を代償として雇用のマッチング機会を放棄している労働者がおり、しかもその数は企業の生産性低下を危惧する程度にいるらしいということも忘れてはならない。 - 「非正規雇用の正規化」とか「同一労働同一賃金」等の一見正当化が容易なフレーズには要注意だ。
前者は「東大には落ちたが授業を受けたら理解できたので入学させろ」、後者は「屏風からトラを出したら捕まえてやる」的な怪しげなレトリックを感じないだろうか?
少なくともこのような視点で議論をしている限り日本の労働環境の抜本的な改革は不可能だろう。 - 「高齢化率の上昇」、「労働人口の減少」も巧妙なレトリックが仕組まれている。
これらの前提には「労働者の年齢の上限は65歳でそれ以降は高齢者」が前提となっているがそんな線引きはいったい誰が決めたのだろうか。
少なくとも日本では健康寿命が75歳になり今後もさらに伸び続け、2016年版厚生労働白書でも「60歳以上の人の6割以上が、65歳を超えても仕事をしたい」と考えている。
日本の労働環境の特徴の一つによく「終身雇用」があげられるが、60歳で一旦定年させる今のやり方はむしろ「期間雇用」と呼ぶべきだろう。 この傾向は中小企業より大企業によくみられる。
働く意欲があり付加価値を生み出す力がある限り雇用を継続してもらうと自分の給料で生活できるようになる。
その結果、日本の労働人口は2045年までほぼ現状維持が可能であり(厚生労働省のデータから試算)、年金支給を75歳からできれば年金問題も緩和することになるだろう。
3、効率的な社会の実現
- 人、モノ、金が効率よく移動できる社会づくりの推進
- 無駄のない社会インフラ作りの推進
- ロボット、IOT、AIを利用し少子高齢化、人口減少などの社会現象にマッチした街づくり、家づくりの推進
以上の項目は今後折に触れてより詳細に論じていきたいが、この中で最も重要なのが1番目の施策だ。
これをうまくやっているのが米国だ。
この国の労働時間は1743時間の20位で日本より少しだけ労働時間が長いにもかかわらず一人当たりのGDPはG7先進7か国中首位(世界でも6位)というのはそれだけ単位時間に多くの付加価値を生んでいる証左だろう。
日本は単に労働時間を減らすのではなく、効率的に付加価値を生む、すなわち農業からサービス業に至るまで全産業においてもっと技術革新やイノベーションを活性化べきだと思うがいかがだろうか?
(続く)
(続く)
2016年10月15日