目次
不連続な長寿化?
人間の寿命
そもそも人は何歳まで生きられるのか?
現時点の通説では120歳前後でその根拠はヘイフリック限界説からきている。
つまり
・人の細胞が分裂しなくなると老化が進み、やがて死に至る。
・人間の細胞分裂の回数を決めているのがテロメアとよばれる染色体
・テロメアは1回分裂するたびに短くなり、約50回の分裂でその役割が終わり分裂が停止する。
この原理から推定すると最長で120歳程度までしか生きられないらしく、政府が良く使う人口動態予測にもこの理論がベースになっていると推測する。
ただしがん細胞は例外で、テロメアの末端を伸長させる酵素テロメラーゼが働くため果てしなく増殖するらしい。
逆にこの酵素を安全に正常な細胞に作用させると果てしなく新陳代謝が起きるため理論上は何歳になっても若々しく死なない人間が生まれてくることになるのだろうか?
不老長寿の果てしなき欲望
前稿にお話ししたように人類の長い歴史の中で直近のたった200年の間に起きた急激な人口爆発により「地球の人口耐性問題」がクローズアップされてくるのは必然であり、いずれ世界的な規模で人口抑制を強いられることになるかもしれないという話をした。
この問題が深刻に思えるのは「誕生」より「死」のコントロールのほうがはるかに難しい点だろう。
以前も投稿したように「先進国を中心に起きている少子化は、地球規模の人口爆発に対して、30億年を生き延びてきた我々のDNAからのメッセージなのかもしれない」という仮説を紹介した。
一方いったん誕生してしまうと人は死に対する恐怖感や無常感から「健康である限り少しでも長生きしたい」という強い欲望が働くことは様々なメディアで伝えられているところだが、これは少なくとも約4000年前のピラミッドの建造、あるいは約2200年前の秦の始皇帝の「不老長寿薬の探索」などで歴史的にも証明されている。
紀元前三世紀、万里の長城や兵馬俑を作った秦の始皇帝は徐福という家来に大金と3,000人の若者や技術者を与え不老長寿の薬を探させたという話を聞いたことがあるだろう。
この話には、「徐福は適当に探すふりをして遠国で国を造り王となって二度と戻ってこなかった」という落ちがつくが、人類はかなり昔から「死に対する恐怖」があったようだ。
「誕生禁止」が選択肢に
確かに昔日本には「姥捨て山」なる強制死の習慣があった。 これは極貧で食糧不足になった農家が家族を守るためあるいは子孫を残すため娘を売ったり、老人が自ら死を選択する風習があったらしいが、これは極限に置かれた中でのやむを得ない選択だったのだろう。
しかし今の日本をはじめ多くの諸外国では「長生きしすぎた」という理由だけで死に追いやれるはずもない。
人類の「死の恐怖」からくる「健康長寿」への欲望が、もしかしたら冒頭で紹介したテロメラーゼなる酵素をうまく利用して不老長寿を実現できてしまうと、細胞が老化しなくなるので赤ちゃんのようなみずみずしい肌を持った100歳、200歳の若者で地球は覆いつくされることになる。
そしていずれ「死なない人間」が生まれることになり、生んだだけ人口は増え続けることになる。
「地球の人口耐性問題」を解決しようとすると「少子化」を受け入れることは勿論、「誕生禁止」という選択肢まで想定されるが、これまでの生命の歴史からするとこれは「環境適応」が難しくなり「種の保存」にとっての大きなリスクになるというパラドックスに陥ることになる。
それでも死なない人間に向かって技術、医学が進化していくとすると、「人の誕生と死」の両方をうまくコントロールしていくような世界的な生と死に関する社会設計の検討が必要になるのかもしれない。
不連続な長寿化?
少し話が未来に飛んでしまったので、現実に戻ろう。
平成28年版高齢社会白書では、「将来推計人口でみる50年後の日本」の中で 男性84.19歳、女性90.93歳まで生きられる
としており、内閣府のホームページでも以下の図を掲載している。
一方、海外ではこれらとは異なった予測が出ている。
先進国の寿命は2030年に100歳へ
(米スタンフォード大のシュリパド・トゥルジャパーカー教授2006/3/8 )
「がん治療などの医療や老化防止研究が現在のペースで進み普及すれば、人間の平均寿命が2030年までに100歳前後になる可能性が高い。
ただし高価な先端医療を受けられる先進国に限られ“命の南北格差”は拡大する。」
先進国の寿命は、2050年までに120歳へ
(ロシア国家会議科学ハイテク技術委員会ワレリー・チェルシエフ委員長 2014年2月26日)
哺乳類の平均寿命は、成長過程の5-6倍になるとの学説証明されたとし人類の進化的な観点からの予測している。
この研究では、平均寿命が120歳となるのは現在国民の平均寿命が80歳以上の国で衛生環境や医療インフラの整備がされていることが条件。
このお二人の提案を先ほどのグラフにマッピングするとこのようになり日本政府が採用しているグラフとは全く違う予想をしていることになる。
なぜこのような違いが生じるのかについて次稿で考えてみよう。
(続く)
2016年10月26日