目次
イノベーションを予測するということ
コンピュータ史から「流れ」を読む
これまでの投稿で、イノベーションを予測するにはコンピュータのこれまでの歴史を振り返ってみてはどうかという提案をした。 その際「コンピュータがどのように使われてきたか」というユースウエアの視点で追うのが効果的だというお話もした。
なぜならそれは「作る側の論理」が「使う側のニーズ/ウオンツ/インサイトによる選好」というふるいにかけられ生き残ってきた履歴そのものだからだ。 それを通じて「更に進化していくもの」と残念ながら「淘汰された残骸」を、共を脳裏に焼き付けておくことはイノベーションを予測する上で欠かせない貴重な財産となる。
この作業は終わりというものはなく日々の地道な調査が必要となる。世の中は常に変化しているからだ。 私の場合は既に30年以上繰り返してきている中で例えば以下の予測をしてきた。
1999年に開始したNTTドコモの”iモード”はいずれ淘汰されることを予想し個人的には全く使用しなかった(すたれていく製品の操作を覚えるのは時間の無駄だ) 淘汰の理由は前回も説明した通り、コンピュータ史の流れに反したため、「ネットワークの価値は、それに接続する端末や利用者の数の2乗に比例する」というメカトーフの法則に敗れたというだ。 このころから2010年代初頭まで続くのが通信事業体を中心にしたメディアコングロマリッドの進展だがこれに関しては別稿に譲る。
2005年には
- 通話やネットと常時接続可能な小型PC端末の出現を予測(2007年のiPhone 発売につながる)
- それらの端末へのサービス提供を効率的に行うためサーバ集積が更に進化する(※1) (大型⇒分散⇒集積)
更に2008年には
- 「ユーティリティコンピューティング(※2)」の時代に入った
ことを社内で報告している。
(※1)今はクラウドコンピュータと呼ばれていますね。この言葉の言い出しっぺはグーグルの当時CEO エリック・シュミット氏で2006年11月に寄稿した雑誌の中で使用している。 ほぼ同時期にサン・マイクロシステムズのCTOグレッグ・パパドポラス氏が「世界に“コンピュータ”は5つあれば足りる」(The World Needs Only Five Computers)といった為、メディアでは”どの5つ何なんだ”とちょっとした波紋を呼んだ。 が、それ自体には深い意味はないだろう。
(※2)以前の投稿でも説明したがにより半世紀前に人工知能の学者ジョンマッカーシー氏が予言したコンピュータの使われ方に関する世界感を表した言葉。
調査会社が将来予測を得意としない理由
IDCから「第三のプラットフォーム」という言葉が日本で初めて紹介されたのが2012年頃だと記憶しているが、間違っていたらご指摘願いたい。 当然調査会社らしくその市場は今後伸びていくという図がセットでついてくる。
調査会社の力の源泉は企業や各種団体からの情報収集能力だ。このパワー背景にした調査資料は確かに付加価値が高いものだ。
但し例えば「プラットフォーム」というとらえ方でもわかるように視点は「作る側の論理」、今後世の中に何が起きるのか? どんな世界になっていくのか? ユーザーにはどんなメリットがあるのか? 等がいまいちピンとこない。 いかにもIT業界向けのリサーチが多いIDCさんらしいまとめ方だが、もし貴方が積極的にイノベーションの将来を予測したいのならこのような視点を変えたほうが良いだろう。
その後出てきたガードナーの”Nexus of Forces”(「力の結節」2012年)もしかりだ。 最悪なのはIBMの”SMAC”(日本IBMはSecurityを加えて2014年に”SMACS”を打ち出している)。 これなどは単なるその時代のキーワードの頭文字をとっただけだ。 この言葉を聞いて思い出したのが1990年代初頭のダウンサイジングのさなかに、どなたか忘れたがIT業界で「ネオダマ(※3)」という造語が流行った時期があった。 ”SMAC”の運命がどうなるのか気になる方はこの造語がその後どうなったのかを検証してみてはどうだろうか?
ネオダマ(※3) : 誰が言い始めたかは記憶にないが、当時のITベンダーは好んで使っていたのだけは覚えている。「ネ」は「ネットワーク」、「オ」は「オープンシステム」、「ダ」は「ダウンサイジング」、「マ」は「マルチベンダー」または「マルチメディア」を意味していた。
このような言葉はある程度先が見えてきてからでてくるもので、祭りでいうと神輿についてくる「お囃子」に似ている。 我々は神輿がどこへ行くのかを予測したいのだとすると「お囃子」に振り回されるている限り時代の先は読めない(読もうとしてない)ということになる。(もちろん実際のお祭りは「祭囃子」というように一体化してさらに価値の高まる町の貴重な文化である)
ここでちょっと脱線するが、ここに登場する言葉や最近普通に使っているキーワードはここまで広まるのに意外に時間がかかっている。 我々はこれらそれぞれの言葉(のちにキーワードなる)が出てくることをいかに予測するのかに焦点を当てるべきだろう。
- 「スマートフォン」 特に米国で人気だったBlackBerryが起源だとすると1999年ということになるが、今のスマホから普通に連想される原型としてはやはりiPhone(2007年)
- 「クラウド」という言葉は2006年エリックシュミット氏がたまたま論文で使い始めのはご存知の方も多いだろう。
- 「ソーシャルネットワークシステム(SNS)」という言葉はいつ頃から出てきたのだろうか? Mark Zuckerberg氏がハーバード大学在学中にコースマッチやフェイスマシュを経た後に開設したFacebookあたりが起源だとすると2004年ということになる。
- 「ビックデータ」ははっきりしないがどうも2011年頃から使われだしたらしい。
- 「IOT」は意外に古く1999年の英国人ケビン・アシュトン氏が言い出しっぺということになっているようだ。
「流れ」を読むことの重要性
これらの真偽はさておき皆さんがもし今後製品開発をしたり新しいイノベーションを狙っているなら言葉ではなく「流れ」を読むことをお勧めする。 イノベーション論考【第1回】でも触れたが、今は3つ「流れ」があることを感じてもらえるだろうか。
- 眼や鼻の機能(センサー)を備え互いにコミュニケーションができる(通信)コンピュータがIOTという大海の中で様々に変態している(まさにカンブリア爆発)。
- コンピュータが我々の生活にまで浸透しひいてはインプラントからインボディ(ナノボット/バイオボット等)、そして人体と融合するようにリフォームされていく。
- 従って昔の産業革命と異なり、中小企業でも個人でも小さなイノベーション(「プチ・イノベ」と呼んでいる)が起こしやすくなっている。 この流れに乗らない手はないだろう。
そしてその数多くのプチ・イノベが積み重なることにより、長い年月の後に人間社会全体が今はぼんやりとしか見えてない、あるいは想像すらできない世界へとトランスフォームされていくのだろう。
過去はともかく、少なくとも現代においてはイノベーションの「流れ」を読むためにはコンピュータ史がその本流の一つであることは間違いない。 但しその周辺にはいくつかの支流がある。 イノベーションの予測の精度を少しでも高めたいならその支流のひとつであり貴重な水先案内人である「ソリューション史」にも焦点を当ててみたい。次回以降はそれををおさらいしてから、今度は皆さんにも予想に加わってもらいたい。
2016年3月7日