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日本国憲法における人権
さてこれまでの2稿で憲法をテーマにした理由、そして憲法ってナニモノなんだ、というお話をしてきた。
今回は憲法の骨格となっている人権についてもう少し深堀したい。
理由は憲法が「個人の尊厳」を究極の価値としていることはもとより、定量的に分析してもその凝縮された条文の中で「人権」にかかわる条文、文字数ともに本文註最大の約1/3を占めることだ。 それだけで憲法が我々国民をいかに守ってくれているかが推測できるだろう。
それだけ重要なものなのでなるべく正確に書くつもりだが、専門家ではないので厳密性に欠ける点があるかもしれない。 そこはこの投稿の目的が「憲法を一般市民から発すること、そしてそれをわかりやすく説明して皆さんに少しでも身近に感じてもらうことにある」ということでお許しいただければ幸いである。
人権は4つに大別できる
4つとは、①自由権、②社会権、③参政権、④受益権だ。
この中で参政権は直感的にわかりやすいが、なんだかわからないのが社会権と受益権、そしてわかったようでわからないのが自由権だ。
1、自由権
この権利は更に3つに分類されている(①精神的自由、②経済的自由、③人身の自由)
①精神的自由
・思想・良心の自由(19条)
宗教以外の個人の世界観、人生観、主義主張など人格形成に関わるものに限定された論理的・倫理的内心(この辺は雰囲気で理解できればいいのかも)
・信教の自由(20条)
信仰、宗教儀式、宗教結社の自由のこと。
いわゆる「政教分離」の根拠法となっている。
グレーの事件では目的と効果で判断する(目的効果基準)
例えば、公金の神道式地鎮祭への支出は合憲(津地鎮祭事件:最大判昭52.7.13)、玉串料への支出は違憲(愛媛玉串料事件:最大判平9.4.2)
・学問の自由(23条)
学問研究、その発表と教授の自由からなる。
大学の自治権なども23条で一応保障されている。
大学の構内で警官が偵察行為などを行えないのは23条で自治権が認められているからだ。 ただしこの自治権はあくまで学問の府として活動を行っている場合に与えられ、一般公開の政治活動などには認められない(東大ポポロ事件:最大判昭38.5.22)
・表現の自由(21条)
人格を成長させる価値(自己実現)と民主主義を支える価値(自己統治)がある。
同じ自由でも経済的自由よりも民主政が優先される(二重の基準論)
皆さんのご想像の通り、このあたりの判例は多いので(*1)、主な結果のみをを以下に示す(○は保障される、×は否定、尊重は条件付きの○)
・知る権利 〇
・マスメディアを利用した反論(アクセス権) ✖
・報道の自由 〇
・取材の自由 (十分尊重される)
・法廷でのメモ行為 (尊重される)
・取材源の秘匿権(民事:✖ 刑事:〇)
(*1)主な判例
博多事件、TBSビデオテープ押収事件、石井記者事件、
NHK記者証言拒否事件、西山記者事件、レペタ訴訟、等
②経済的自由(営業の自由)
・居住・移転、職業選択の自由が保障される(22条)
・財産権(29条) ①個人の具体的な財産権の保障と②私有財産制の保障
③人身の自由(何人も拘束されない)
・奴隷的拘束を受けない(18条)
・適正手続きなしに自由をはく奪したり刑罰を科すことはできない(31条)
・現行犯以外は逮捕令状なくして逮捕できず、捜査押収令状なくして押収できない(33、35条)
・自白の強要からの自由、黙秘権の保障(自己負罪拒否特権)(38条)
2、社会権
・生存権(25条) 健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
・教育を受ける権利(26条) 義務教育の授業料は無料だが、教科書代金などは有料とか。
・労働基本権(27条:勤労、28条:団結、団体交渉、ストライキ)
3、参政権
・選挙権、被選挙権(立候補の自由)は国民固有の権利(15条)
平成17年に海外赴任中の国政選挙の制限に関し違憲判決が出たため翌年公職選挙法を改正している(最大判平17.9.14)。 これが7番目の法令違憲の判例となった(つまり、現行法律が憲法に違反していると最高裁の判決が出た)
これも戦後から海外赴任者が増大している社会情勢の変化に法制が追い付いていない事例のひとつだ。
4、受益権
多分、この権利が最もわかりにくいものだが、中身はシンプルだ。
・請願権(16条:国務に対する希望を差別待遇なしに請求できる)
・刑事補償請求権(40条:拘禁後、無罪が確定したら補償が請求できる権利)
・裁判を受ける権利(32条:裁判を受ける権利は保障されるが場所は指定できない)
・国家賠償請求権(17条:公務員の不法行為により受けた損害を国に賠償できる権利)
以上だがいかがだっただろうか?
これまでの3稿で日本国憲法が少しでも身近に感じられたら幸いである。
2016年5月11日